あなたといきてゆく

あなたがいたから生きてこれたんだ 大袈裟に言うとそんなとこ あなたがいるから生きてゆけるんだ 大袈裟じゃなくてそんなとこ

目の前で演奏するGLAYさんの姿を見て、そしてこの歌を聴いて僕は泣いていた。隣で中学からの友人も泣いていた。 僕らはロックキッズだった少年時代から大人になり、共に「いきてゆく」人と出会い、そして共に「いきてきた」人と別れてきた。

「久しぶりにGLAYのライブに行かないか?俺は未だにファンクラブだよ。結婚してなかなか行けなくなったけど、30歳になる前にもう一度見ておきたくてさ。」

友人からの電話を受けて僕は 「俺もまだ入ってるよ。それじゃそれぞれチケット応募しよう。外れたら仕方ないということで。」

チケットの結果は友人が落選、僕は当選した。

今回のツアーはニューアルバム「SUMMERDELICS」を引っさげてのツアーだった。 タワーレコードに行ってCDを買うのはいつぶりだろうか? いつのまにか僕はダウンロードやストリーミングで音楽を聴くようになったし、特定のアーティストを聴き込むこともなくなっていた。

CDのビニールを開ける時、懐かしい記憶がたくさん蘇った。 そういえば初めて行ったライブもGLAYだったな。 彼女にフラれたとき泣きながら聴いていた曲もGLAYだったな。 受験や就活の時に自分を鼓舞するために聴いていた曲もGLAYだったな。

僕はGLAYと共に生きてきたのだ。

アルバム「SUMMERDELICS」を開けると収録されていない曲の歌詞カードが一枚別に入っていた。

「あなたといきてゆく」 そのタイトルと歌詞に涙した。

そのアルバムが出た今年の夏、僕は父親になった。たぶん一生忘れられない夏になるだろうし、思い出深いアルバムになると予感した。

それからの日々は宝物のように大切にした。高校の頃、買ってもらったiPod nanoGLAYばかり詰め込んで聴き込んでいたあの頃と同じように、僕は少しだけロックキッズに戻っていた。

現実では始まったばかりの子育て、新しい営業所での活動、資格試験と大忙しであったが、初めてギターを手にしたロックキッズに戻っていたからこそ乗り越えてこられたと思う。

時は流れ12月。 僕は日本ガイシホール最寄駅の笠寺駅でもう1人のロックキッズを待っていた。

彼とは中学からずっと同じバンドをやっていて、ライブに来てくれていた人たちからはよく右側のギター、左側のギターと呼ばれていた。 GLAYも同じツインギター。 リーダーだった僕はバンドはツインギターであるべきと考えてバレー部だった彼に無理矢理ギターを始めさせたのだ。

チケットはまだ封筒から開けずにいた。 彼と一緒に席を確認したかったからだ。 「桐崎、久しぶりだな。俺たち今日は青春時代に戻ろうぜ!」とふざけながら言う彼を見て、たまらず大声で笑ってしまった。 ライブの後に反省会と言いながら、ベースの家でその日のビデオを見て笑っていたあの日を思い出した。

近くのコンビニで缶ビールで乾杯をした。 そしてチケットの封筒を開けて席を確認した。

「嘘だろ、、」そう呟いた僕を見て友人は「後ろの方か?」と聞いた。

「違う、その逆だ。アリーナ5列目。」僕の声は震えた。そんなに近い席は初めてだった。 「マジか!桐崎、もう一度乾杯しよう!」

開演まであと5分となった時に友人が呟いた。「なぁ、聴きたい曲ある?今回のアルバムの曲はやると思うけど。ほかにある?」と聞いてきた。 僕は少しだけ悩んで「pure soulかな」と答えた。僕が辛い時、必ず聴いてきた曲だ。 友人は「いい曲だよな。でも昔の曲すぎないか?やらないだろうね。俺はベタだけど誘惑が聴きたいな。」と話していた。

今思えば、ネットでセットリストを検索すれば容易にネタバレが見られる時代に僕らは2人とも見てこなかった。それだけGLAYに期待していたのだ。

16時客電が落ちる。

大型ビジョンに映像が流れ、全員がそれを見つめていると逆サイドから歓声が聞こえてきた。 「?!」 ステージ上手の花道にHISASHIさんが出てギターを弾いているではないか! と思ったら隣の席にいた女性が悲鳴をあげた。 「?!」 僕のすぐ目の前でJIROさんがそのリフに合わせてベースを弾いている。ちょっとベースの位置が高めになっててかっこいい!

ちょっと待て、TAKUROさんがいないぞ、と思ったら 「?!」 ドラムの後ろにもステージあるー!そこでスライドバーを使いながらギターを弾いている。 かっこいいインストの曲に全員がリズムに乗っていた。 「なぁ桐崎、GLAYってこんなに演奏重視だったっけ??」

いつもならSEと共に歩いて登場してくることが多い中、セッションから始まるなんて!

そんなことを思っていたとき、センターステージ周辺で悲鳴があがる。 TERUがいた!!

そこからはとにかく目の前にいるバンドが僕の青春時代の象徴であることを信じることに必死になっていた。 セットリストについてはこちらを参照してほしい。

ライブは3時間という長い時間であったけれど、僕は本当に短く感じたし、その刹那にまた必ず見にくると誓った。

ライブが終わり金山駅へその友人と移動して、居酒屋で一杯やった。 共に家族を築き、子どもを抱いている大人になったことを少しだけ忘れることができた今日という日を噛み締めていた。

非現実と現実の境目が分かりづらくなった時代だ。 それでも僕が今日もこうしてネクタイをして、スーツを着て、仕事に励むことができるのはかけがえのない青春時代のヒーローが今もなおマスクを脱がず歌い続けているからである。

「あなたといきてゆく」

これは僕らの里程標だ。