フラれた後輩から「段取り」を考察する
「桐崎さん、フラれました。。」 半ベソをかきながら僕に報告をしてきた後輩にかける言葉は何も無かった。
…
彼がフラれた女性と出会ったのは友人からの紹介だった。 「桐崎さん、次こそは彼女にしたいっす。桐崎さんは何も言わないけど絶対奥さんの他にオンナいますよね?教えてください!」 彼は鼻息荒く僕に詰め寄ってきた。ひどく暑かった夏の日だと記憶している。 僕は会社では嫁と子どもにフルコミットなパパを演じていたが彼だけはいつも「桐崎さんは女が他にいる。」と言っていた。(言ってくれていた。)
彼は本気で結婚相手を探していたし、身なりもしっかりしていたので可能性は十分にあると思っていた。 しかしながら彼は唯一 仕事の段取りが悪かった
のだ。 それが恋愛に悪影響なければいいけどと思いながら「最初のデートはどこにするの?」と聞いた。
彼は「んー、一応来週の土曜ってことは決まってますけど、、」と何も決めていなかった。
アポってセクトラ
がサウザーさんの教えであり、僕たちの流れではあるけれど彼の目は純粋に煌めいていたし、そんなことは言える雰囲気では無かった。 「そっか。早めに決めた方がいいよ。飲みに行く感じでいいんじゃない?」とアドバイスした。
「え、いきなり飲みに行くんですか?それはちょっと。。映画にします!妻夫木くんのやつ!」
…
映画デートの次の週、彼に「映画デートはどうだった?彼女になった?」と聞いた。
「大変でした。チケット買うのに結構並んで飲み物とか買えなかったんですよね…」
彼は段取りが悪かった
「そうか、野球で言ったら一応一塁にランナーは進んだ?」と聞いたら 「いや、空振り三振です。」と答えてきた。
パンダさんの教えであるスマートボール戦略に想いを馳せていた僕だからこそこの案件は野球に例えながらやっていこうと考えた。しかし彼の1番バッターは空振り三振をしたのだ。
僕らはここで試合を終える。ただ彼は 「桐崎さん、まだ1回の表ですから。」とやけに前向きで次のアポは翌週にあることを教えてくれた。僕はアポが取れていることに驚いたし、彼の言う通り試合はこれからかもしれないと考えた。
「そうか、次は2番バッターだな。俺だったら長打を狙うけど、君はどうだ?どこに行くんだ?」と聞いた。 「桐崎さん?まだ2番バッターですよ?確実に塁に出ます。」と答えた。
こんなに長く点の入らないイニングは野球にはない
と思ったけれど「分かった。次はどこに行くの?まさか映画デートじゃないよね?」と聞くと、 「まだ決めてませんがオシャレなカフェでお茶してからイタリアンに行くつもりです。ドレスコード有りの。」と彼はドヤ顔で言った。
彼は段取りが悪かった
その次の月曜、彼はルンルンに僕に 「桐崎さん、2番バッター二塁打です。」とドヤ顔で言った。 「良かったじゃないか。キスぐらいしたの?」と聞いたら、彼は 「桐崎さんは付き合ってもない女の子とキスするんですか?そもそもそれはホームランじゃないですか。。」と悲しそうな顔で言った。
「次は滋賀県のびわ湖テラスに行ってそこで告白します。それでホームインです。」と彼は自信のある表情で僕に伝えた。
彼は予告通り滋賀県日帰り旅行で告白をした。 しかし、彼が告白したのはびわ湖テラスなどのおしゃれスポットではなくLINEで告白をしていた。
「直接言う勇気が無くて、、でも伝えたくて、、そもそもどこで告白するかとか決めてなくて。びわ湖テラスも人多すぎて、、」と彼は言った。
彼は段取りが悪かった
「さすがにスリーアウトだな。」と言うと、「いや、返事は少し待ってほしいと言われてます。」と答えてきた。 「察しろ、それは静かに三振を告げるアンパイアだ。」
「いや、待ちます。3番バッターは三振でもまだツーアウトだし、2番バッターはまだ二塁にいます。」
彼の前向きな姿勢は僕の非モテ時代を思い出させた。
「桐崎さん!大至急!女の子口説く時の店、教えてください!例の子ともう一度飲みに行くことになりました。彼女は普通に飲みに行きたかったらしいです。」 彼はニコニコしながらこちらへやってきた。
「分かった。いい店を紹介するよ。(赤提灯系居酒屋)」
「え、、桐崎さん勘弁してくださいよ。こんなのおっさんが行くところじゃないですか。彼女、商社の事務係ですよ?もっとこう、オシャレな、、」と彼は言った。
「分かった。」と言って僕は昔大手商社に勤めている帰国子女と飲みに行ったカジュアルバーを紹介した。
「やっぱさっきのは冗談ですよね?もー。」
「ところでその約束の日はいつ?その店、人気だから予約しといてね。」と話したら、 「え?今日です。一昨日約束して、自分でも探してたんですけど。」
彼は段取りが悪かった。
奇跡的にその店の予約は取れたが、彼はその夜、同じくしてLINEでご丁寧にフラれたとのこと。
彼は最後に勇気を出して理由を聞いたのだが、その理由は言わなくてもわかると思う。
結局のところ、
スピードと段取りが人生において全てだと僕は思う。
しかしながら彼の行動はいつの日も僕の胸をエグる自分を見ているようだった。